『ヴィクトリア朝文化研究』(日本ヴィクトリア朝文化研究学会)第22号(2024年)に書評を寄稿しました。雑誌の目次一覧はこちら。
対象はEdward Gillin, An Empire of Magnetism: Global Science and the British Magnetic Enterprise in the Age of Imperialism, OUP, 2023です。ヴィクトリア朝前期にヨーロッパの科学界で隆盛した地磁気研究と観測プロジェクトについて、とくにイギリスに焦点を絞った研究です。地磁気研究は同時代の自然科学界の大きな関心事であり、J. F. W. HerschelやE. Sabine, 王立協会やイギリス科学振興協会などの学会が重要な担い手となりました。中央政府からの資金面でのサポートも受けて、世界各地に観測所が設けられ、南極にむけた探検航海の派遣も実現しています。
これらの動きはいわゆる’Magnetic Crusade’としてよく知られています。しかし、これまでの研究は個々の学者や学会の活動に焦点を絞って論じる傾向が強く、体系的に整理したモノグラフは皆無であったと思われます。Gillinの著作は従来は別個に論じられてきた複数の潮流(極地探検の隆盛、電磁気学の発展、コーンウォールの地域的科学拠点の形成、地磁気計測のグローバル化、王立協会・イギリス科学振興協会と国家の関係など)を統合的に結び付け、全体像を示した点で大きな画期性を有すと思われます。著書のHPはこちら。