研究 RESEARCH

a. グリニッジ標準時・時間意識の近代化

19世紀イギリス社会における時間に関する制度・認識・技術の変化を、経済・軍事・帝国・交通・情報通信・文明意識などの複数の文脈で考察しています。とくにグリニッジ標準時の浸透に焦点をあて、正確度の高い時報インフラが国内各地に確立していく過程を検討しています。

最近では、イギリス帝国の白人定住植民地やインドにおける時間通知技術の改良と入植者によるヨーロッパ的な時間観念の共有と伝播、さらにグリニッジ世界標準時の確立にいたる経緯を研究しています。また、時間に関する制度、標準時の導入、時計などの技術革新の実態、国民統合・帝国主義と時間意識などの主題について、共同的な比較史・関係史の可能性を模索中です。


b. 科学研究と制度

科学研究の制度的基盤について、科研「19世紀イギリスにおける海軍と科学研究」(2016~2020年)では、イギリス海軍の科学研究部門の設置とその活動を分析しています。海軍はグリニッジ天文台や世界各地の海図作成を担う水路測量局をはじめ、天文学、潮汐・地磁気・気象観測、造船技術、航海術研究などの領域横断的な研究体制を構築し、ヴィクトリア時代に巨大な「科学センター」として機能していました。

これに関連して、近代イギリスにおける科学の制度化や財政軍事国家に関する共同研究に参加し、科学知識の生成・伝播・普及・利用を可能にする公的な諸制度に関する検討を行っています。


c. 空間と地図・海図 

2010年に出版した単著では、正確度の高い経度測定技法とイギリス帝国の拡張の関係を検討しました。この主題に関連して地図史学にも関心を持ってきましたが、最近ではイギリス海軍が世界規模で実施した海図の作成・出版・流通を対象とする研究を行っています。とくに東アジア海域に到来したイギリスの測量船をめぐる日英の対立と協働や海図作成技術・知識の移転を検討中です。